蘇った錬金術

C・G・ユングは、十数年におよぶ錬金術に関する研究を続けた後、
錬金術の象徴図像が、精神病患者の描く図像に類似していることを
発見しました。
そして、錬金術の目的は錬金術自身の自己実現にあって、
錬金作業の対象となる物質とは、
まさに「無意識」の世界に他ならないという結論を導き出したのです。 

それは、錬金術を実験している人は、化学の実験を行いながら
一種の心的な聖なる体験をしていたと主張するものでした。

そして、この錬金術には、神秘主義的な要素が多分に含まれていて、
錬金術師の心の統合過程を当てはめることで
真の意義を見いだすことになるのだとして捉えました。


このようにしてユングは、現代世界に錬金術思想を
復活させることに成功したのです。
また、もう一方では、神話学者であるM・エリアーデが、
錬金術を古代密議宗教の参入通過儀礼の過程と比較研究することで、
錬金術が人間の精神的な完成を目指す通過儀礼として
位置づけることができると考えました。


精神心理学者ユング博士が後世に遺した蔵書には、
心理学と錬金術の関連についても多くを語っています。 

眼に見ることの出来ない心の形相をどのようにして説明すればよいかを
模索しているとき、錬金術の象徴表現には心の深層にあるものを
表現するために類似する概念が多くあることに目をつけて、
とても役に立ったそうです。